高尾山でドッコイショ!

高尾山は修験道の霊山です。

修験者達は、「懺悔懺悔(ざんげざんげ)六根清浄(ろっこんしょうじょう)」と唱えながら、厳しい山岳修行に耐えて、108の「煩悩(ぼんのう)」から解放されること(「煩悩」からの「解脱(げだつ)」)を目指します。

一方で、薬王院参拝者は、「煩悩」からの「解脱」を目指して、ずっと安易な方法を選ぶことができます。

その手助けをしてくれるのが、「六根清浄石車(ろっこんしょうじょういしぐるま)」なのです。

六根清浄石車(高尾山 1号路)

ご覧の通り、一番上に文字が彫られた黒く丸い石が乗っており、その丸い石には、「眼」、「耳」、「鼻」、「舌」、「身」、「意」という六つの文字の何れかが彫られていて、その下には手で回すことのできる石車がついています。

高尾山には、山麓から始まって「少なくとも」18基の「六根清浄石車」があるといわれています。

薬王院の表参道である1号路を辿る場合、男坂を通るか、女坂を通るかでも、出会える「六根清浄石車」の数は違ってくるようです。

薬王院は、「煩悩」多き参拝者に寄り添って、『六根清浄石車を一度回す毎に、「煩悩」が一つ少なくなる』という親切な仕組みを設けているんです。

外国人観光客から「これは何ですか?」と聞かれれば、そのカラクリを教えてはあげますが、興味深そうに石車の部分を回す方もいるものの、内心は「日本人の宗教的不真面目さ」に呆れている方もいるのかも知れません。

一方で、「一体、これはなんだろう?」と思っている好奇心旺盛な子供達にその効果を教えてあげると、即、大人気となり、友達や、兄弟姉妹と競争して回しています。

もちろん、すぐに飽きてしまうクールな子もいますが・・・

ある時、子供連れの家族を含む日本人の知人のグループを案内したとき、帰りがけに幼稚園児の女の子に、その日の高尾登山の感想を聞いてみました。

彼女は、(恐らく、幼稚園で覚えたばかりで、使ってみたくてしようがないフレーズだったのでしょうが・・・)「この上もなく楽しかった」という嬉しい感想を聞かせてくれました。

続けて「何が一番良かったの?」と聞いてみると、「アイスクリームが美味しかった」との返事、「六根清浄石車」を回した効果はなかったようです。

皆さん、「煩悩」を確実に減らすために、「六根清浄石車」を回すときは、同時に、一回毎に「懺悔懺悔 六根清浄」と唱えましょう。

我々のような「煩悩」多き凡人達には、厳しい山岳修行は無理であり、少なくとも18基の「六根清浄石車」を6回ずつ回すことよって、厳しい修行を行うことなく108の「煩悩」から解放されることを目指します。

18×6=108というわけです。

仏教では、人間は、『「眼根(げんこん)(視覚)」、「耳根(にこん)(聴覚)」、「鼻根(びこん)(嗅覚)」、「舌根(ぜっこん)(味覚)」、「身根(しんこん)(触覚)」の五感に、「意根(いこん)(意識)」を加えた「六根(ろっこん)」を通じて、光景(色(しき))、音(声(しょう))、匂い(香(こう))、味((味(み))、痛みなどの物理的感触(触(そく))、心に表れたもの(法(ほう))などの認識対象に触れ、それによってさまざま「煩悩」が生じる』と考えます。

般若心経をご存知の方は、これらの言葉は馴染みのあるものかもしれません。

そして、これら六根の感じかたに、「好(こう:気持ちが好い)」、「悪(あく:気持ちが悪い)」、「平(へい:普通)」の3通りがあると考えます。

従って、六根を通じて18種類の感情が生じるわけです。

さらに、その18種類の感情には、それぞれ、「染(せん:きたない)」、「浄(じょう:きよらか)」の2通りがあります。

これを考慮すると、全部で36種類の感情、即ち、36の「煩悩」が生じることになります。

仏教では、修行によりこれら36の「煩悩」から、「過去(前世)」、「現在(現世)」、「未来(来世)」の三世(さんぜ)にわたり、解放されること(「煩悩」から「解脱」すること)を目指します。

従って、36の「煩悩」に「過去(前世)」、「現在(現世)」、「未来(来世)」の三つを乗じると108の「煩悩」となるわけです。

全部受け売りで、内容の正確性については責任は負いかねますので、その点はご容赦願います。

厳しい山岳修行の目的は、具体的には、これらの六根を浄めることであり、それにより「煩悩」からの「解脱」が達成されます。

考えてみると、「煩悩」多き凡人達にとっては、18基の「六根清浄石車」を6回づつ回しながら、「懺悔懺悔 六根清浄」と唱え続けるだけでも、大変かも知れませんね。

薬王院の山門である四天王門をくぐり抜けて境内に入ると、すぐ右手に目に入ってくるのが、一際(ひときわ)大きな「六根清浄石車」で、これが、「六根清浄石車」の「総本山」的な位置付けとなっており、六根を表す文字は、大きな石車に全て刻まれています。

18基全部の「六根清浄石車」を回すのは無理としても、せめて、この「総本山」ぐらいは回してみてください。

六根清浄石車の総本山?

散々勧めておいて恐縮ですが、よく見ると、「六根清浄石車」の「総本山」の上部に何か小さな紙が貼られています。

実は、その小さな紙には、「安全対策中につき利用できません」という薬王院からのメッセージが記載されており、現時点では、新型コロナウィルス肺炎の流行を防止するための安全対策として、「六根清浄石車」は全てアンタッチャブル(使用禁止)になっているのです。

高尾登山の折、「六根清浄石車」で安易に、煩悩から解脱する試みは、新型コロナウィルス肺炎の終息後のお楽しみということにして頂きたいと思います。

もう一つ、「六根清浄石車」の「総本山」の上部には、どこぞで見たようなデザインのレリーフが刻まれています。

どうでしょう、有喜苑の「飯縄大権現」のブロンズ像の前にある「雲形台座に据えられたご神鏡」に似ていると思いませんか?

飯縄大権現像の前の御神鏡

あるいは、このレリーフは、「高尾山には富士山がよく似合う」の稿で採り上げた「ダイヤモンド富士」を描写したようにも見える気がします。

ダイヤモンド富士(高尾登山電鉄)

出典:https://www.takaotozan.co.jp/diamond/

単なる気の迷い、「煩悩」のなせる業(わざ)かも知れませんが・・・

因みに、私のように、年金の受給資格を持つような年齢になってくると、日常、ついつい口に出してしまいがちな「ドッコイショ」という言葉の語源は「六根清浄」であることが、NHKの人気番組、「チコちゃんに叱られる」でも「どっこいしょってどういう意味?」と、取り上げられていましたね。

私も、日々「ドッコイショ」と唱えながら、五感を研ぎ澄まし、邪念や迷いを捨てて心を清らかに保つよう残りの人生を送りたいと思います。

懺悔懺悔 六根清浄、ドッコイショ!

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